こんにちは!
本日もよろしくお願いいたします。
1、コレクターとは……
今回は、僕のコレクションや人生において「心のバイブル」になっている本を紹介したいと思います。息抜きとして気軽にお読みいただければ幸いです。
一冊目はこちら。
『本の愛し方 人生の癒し方 ブックライフ自由自在』荒俣宏(集英社文庫 1997)
これは『ブックライフ自由自在』荒俣宏(太田出版 1992)の文庫版です。僕はこの本と村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』をどこにいくにも持ち歩いて、いつでも読めるようにしていた時期があります(笑) そのくらい大好きな本です。
荒俣宏と言えば、今の若者にとってみれば時々テレビで見かける物知りなおじいちゃんといった感じかもしれませんが、荒俣さんと言えば稀代の古書コレクターとして有名なのです。今はどうかわかりませんが、僕はテレビでお見かけする度、「あぁ……また何か古書を買ってしまい、テレビの出演料で借金を返済しているのかしら」と余計な心配をしてしまうほどです。
この『ブックライフ自由自在』は1980年代のそんな荒俣の古書との日々が綴られた現代の奇書といってもいい傑作です。およそ普通の人生を送る上では一度も目にすることはないであろう書名や著者名がどのページにも溢れかえっており、荒俣の自嘲気味なユーモアと文章力とも相まって、読書というものの喜びに心から浸ることができる至高の文庫本となっております。
荒俣がコレクションの対象にしている本は主に18世紀、19世紀に作られた欧州の博物学に関する書物で、のちに16世紀、17世紀のものにも収集の範囲を広げていきます。そもそも一冊10万円以上する本を次々に買い込んでいた荒俣ですが、最終的には一冊800万円以上する本も思い切って購入するに至り、コレクションというものの業の深さを感じさせてくれます。
古書との出会いは一期一会、「また買えるだろう」と高を括って見逃したが最後、次に出会えたのが3年後という経験が僕みたいな鼻垂れコレクターでもあるくらいです。荒俣のような国の博物館に入ってもおかしくないような本をコレクションしている人間にとってみれば、見逃せば文字通り、もう一生出会えない本だってあるわけです。なので「買うか、買わないか」の決断は重く、希少なものであればあるほど、「買う」しか選択肢はなくなっていきます。その唯一の障害になるのが価格、つまりお金なのですが、荒俣はそれをひたすら原稿を書くことで乗り越えていきます。
2、無間地獄(天国)
荒俣にはとても多くの著作があります。
どれも読みごたえのある良書なのですが、その多作の原動力は古書と借金と言っても過言ではありません。ギャンブルのつけのために原稿を書きまくったドストエフスキーのごとく、古書の代金を払うため、またその古書を日本に紹介するために、荒俣も出版社に泊まり込んで原稿を書きまくります。そのまま力尽きて寝て、朝一番に出勤してくる掃除のおばさんに起こされ、また原稿を書き寝る。そんな日々を続けて「平凡社の夜警」の呼ばれます(笑)
しかし、ここでひとつ問題がありました。それは原稿を書くにあたり資料として新たな古書が必要になる場合があることです。
時には数十枚の原稿を書くのに200万円もする古書が必要になることも……どこかの大学に所蔵されていればそこまで出向きますが、そう都合よくそんな希少な古書が日本にあるわけもなく、原稿料をもらっても赤字なんてこともしばしば。
そうやって買っては書き、書いては買って、日本では荒俣しか所持していない本がどんどんと出版社の倉庫に(自宅には入りきらないので)やってくるわけです。この終わらないループ。まさに無限地獄……いや、ご本人はなんだかんだで喜びの涙を流しているので天国なのかもしれませんが。
3、優秀過ぎる古書店+カタログ=破滅
そんな荒俣の古書収集の日々も、借金と原稿の大波を乗り越えて、一時期落ち着きをみせます。
東京の郊外にマンションが建つのではないかというくらいお金を使った荒俣でしたが、おかげで欲しかった本もだいたい揃えられたし、自分はこれで完璧なのだと、心軽い日々を過ごします。
しかし、そんな心ももう一人の古書コレクター、鹿島茂との出会いですぐに崩れ去ります。
荒俣はそれまで自分の蒐集範囲からパリとベルギーと日本の古書店のカタログだけで満足していました。いや、正確に言えばそれで満足しておかないと本当にまともな暮らしはできなくなると思っていました。ところが、鹿島茂はそんなところは易々と飛び越えて、パリ、ベルギーはもちろんのこと、イギリス、スイス、オランダ、ドイツ、スペイン、アメリカにまで手を伸ばしていたのです。
すっかり感服した荒俣は鹿島から自分が知らなかった古書店のカタログを数冊借りて帰ります。すると、どうでしょう。今まで探していても絶対に見つからなかった本たちが嘘みたいにわんさか載っているではありませんか。結果、荒俣は血の涙を流しながら世界中に注文用紙を送りまくることになります。
海外の古書店は、歴代の愛書家たちによって長い年月をかけて育てあげられています。その積み重ねにより形づくられた伝統とネットワーク。それが現店主にも引き継がれ、およそこの世に彼らに探せぬ本などなかったのです。
荒俣はそのことを思い知らされ、また死に物狂いで原稿を書きまくります。そうしてまたひとつ、日本に博物学の良書が生まれるのです。本当にありがとうございますと言いたいです。
この本のタイトル『ブックライフ自由自在』とはよく言ったもので、全くその通りにはなっていないことがお分かりいただけたと思います。むしろ「ブックライフ苦労苦悩」と言った方が正確なように感じますが、これはどんなコレクションにとっても言えることなのです。
やはり生活に支障が出るほどのコレクションをするにはそれなりの覚悟が必要です。僕も荒俣、鹿島、お二人のことは心の師と思い尊敬しておりますが、そこまでの覚悟はできそうにありません。
しかし、人が見向きもしないことに自分で価値を見出し、楽しみを発見するという姿勢はいつも忘れないように心掛けているつもりです。
そんな初心を忘れないように僕はこの本をいつでも手に取れるところに置いています。
今回のこの記事で、少しでも荒俣の著作にご興味を持っていただけたなら幸いです。
特に本書は古本好きの方には、笑いあり涙ありの傑作ですので是非ご一読ください。
ではでは、また~。