二枚目の絵

こんにちは!

本日もよろしくお願いします。

1、コレクターズハイ

初めて絵をコレクションしてから二ヵ月。僕は画廊でアルバイトをする中で、たくさんの絵を実際に手に取りながら見させていただき、少しだけ絵のことがわかってきたつもりになっていました。(まぁ、今もそうなのですが……)

それと並行して古書店で様々な図録や書籍を買い込み、早くも次の一枚に巡り会ったときの妄想で頭がいっぱいです。

人は長距離を走っているとき、苦しいけれどその苦しさをある一定のところでキープし続けていると、だんだんと逆に気持ちよくなってくるってよく言いますよね。いわゆるランナーズハイです。

これとはちょっと違うとは思いますが、この頃の僕はまさにそんな状態で、知識だけで知っていた物故洋画コレクションの世界に実際に足を踏み入れたことで、これまでの鬱憤を晴らすかのように、コレクションに対して前のめりになっていました。さながらコレクターズハイです。

この状態になると色々と危険です。

まず、金銭感覚が決定的に狂いだします。二万、三万は安いと感じ始め、また貯金は全て軍資金だと思い込むようになり「これならあと何枚買えそうだ」とか「いくらまでなら出せそうだ」とか、いつもそんなふうにお金のことばかり気にして絵を見るようになります。

また、付け焼刃の知識で「この画家は良い」「この画家はダメ」と勝手に根拠の薄いレッテル貼りをやりだします。

さらに症状が悪化するとその両方が混ざり合い、他コレクターに対し「この画家集めてるんだ……」とか逆に「この画家の作品を持ってるなんてすごいですね!」とか思い始めたりします。

うっ……頭がっ……その先は地獄ですので今すぐ目を覚ましましょう!

もちろん、これでは良いコレクションはできそうにありませんよね。

確かにコレクションはお金がモノをいう世界です。コレクターをしていると、自分よりお金を持っている人やたくさん絵を持っている人に本当に無限に遭遇できます。だからこそ、そんな価値観からは離れなければなりません。

というか、そもそも他人と比べるのはやめたほうが賢明です。他人のコレクションを尊重するのはもちろんですが、まずは自分のコレクションを愛で、そして誇りを持ちましょう。でないと、物故画家に対しても失礼になりますしね。

2、二回目の入札

いのは画廊のオークションは概ね二ヵ月に一度の開催です。

当時、軽度のハイ状態にあった僕はその時を今か今かと待っていました。そして、開催一週間前に自宅にカタログが届けられるとすぐに開封し、つぶさにチェックです。

猪羽さんと一緒に写真撮影をしたので、どんなものが出品されるかは知っていました。しかし、いくらの値段をつけるのかは聞いていなかったので(この値付けこそが古美術商の腕の見せどころだと思います)興味深く見ていました。

そうこうしているうちに妻が帰宅し、一緒に夕飯を食べている時に妻にもカタログを手渡しました。

僕がこの絵はどうかとか、あの絵はどうかとか聞きましたが妻は「ふーん」という感じであまり乗り気ではなさそうです。そういう僕も実はどの絵がよいか決めかねていました。毎日毎日新しい情報を入れ過ぎて、もう頭の中がごちゃごちゃで自分の絵の判断基準というものを完全に見失っていたのです。

すると妻が「この絵は?」とひとつの絵を提案してきました。

「え、これ?」

その絵は僕の目にはほとんど入っていなかった絵でした。

なぜなら値段が8000円。しかも全く聞いたこともない画家の絵だったからです。

はい。ここでコレクター格言その1です。

コレクター格言その1 絵を値段で侮るな!!

これ本当にそうなので、しっかりと心に刻んでください。いや、賢明な皆様であれば改めて刻むまでもないことだと思いますが。

絵の良し悪しは値段ではないですよね。確かに値段の高い絵には高いなりの理由があることが多いですが、だからといってそれと芸術的価値は必ずしも比例しません。僕はそんなことも忘れてしまっていました。

それと画家の名前を知らないのは単なる自分の無知故です。この件以来強く反省しています。

翌日、古本チェーンのバイトをしながら僕はその絵のことをずっと考え続けていました。

帰宅し、夕飯の準備をしながらもカタログを眺めます。昨日妻に言われるまで気にもしていなかった絵がなんだか無性に気になり始めました。ネットで検索してもろくに情報が出てきません。自分の持っている資料では名前すら見つけられませんでした。

もう一度画廊に行って実物を見てみたかったのですが、あいにく予定がいっぱいで行けそうにもありません。

ならばやることは一つでした。僕は翌日入札の電話をかけていました。

3、僕を正気に戻してくれた絵

翌週、怒涛のバイトを終えて画廊のバイトに出勤しました。

なんだか画廊で働いてもそれ以上に画廊にお金を持っていかれている気がしますが、おそらく気のせいです。

挨拶もそこそこに今日はやることがいっぱいなので、早速梱包作業の開始です。

多少慣れてきたとはいえ慎重に作業します。

すると例のごとく

「今回も見事に落札おめでとうございます」

と僕に無事に落札できたことを猪羽さんが教えてくれました。

価格は他に入札がなかったので8500円ほどだったと思います。

写真撮影や飾りつけの時に見ていたはずなのには初めてまじまじと実物を見ました。

なんとも不思議な絵です。ごくごく普通の素朴な花の静物画なのに、とても特徴的だと感じました。

いわば「シグネチャー」みたいなものが筆遣いや絵の具の使い方でつけらているような、そんな感覚。この絵の描き方はこの人だとわかる。画家のそんな巧みさにただただ感心しました。

なぜ見逃していたのか。本当に不思議です。

今回の絵はF4号と小さめだったのでそのまま手で持ち帰りすぐに家に飾りました。

やはり妻も気に入ってくれてよかったのですが、

「……あれ?このままだと僕のコレクションというより、妻のコレクションっていうことになるのでは……?」

と僕は絵を眺めながら、一抹の不安を覚えるのでした。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

ではでは、また~。

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