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1、郷土の画家
毎日毎日、来る日も来る日も検索していた僕のとある検索ワードに、ある日ついに一件ヒットしました。
それは僕の郷土の画家の名前で、出品されていたのは油彩画でした。
僕の地元は群馬県なのですが、普段は郷土愛など意識しないものの、隣町出身の画家がおよそ100年前にいたと知ると気になってしまい、作品を探していたのです。
僕は眠りかけていたのを起き出して、まじまじとスマホの画面を見つめました。
それはヴェニスの朝を描いた風景画でした。制作年は1928年。画家が渡欧していた時に描いた作品でしょう。サインと画風からみても偽物の可能性はまずないと思いました。
すぐにウォッチリストに入れ、次の日から調査開始です。
しかし、困ったことにこの画家にはちゃんとした画集は存在していません。あるのは断片的な記録と事典の略歴。それといのは画廊データベースの情報のみです。
白馬会の後期にも出品、その後も光風会に出品、入選し、パリに留学して藤田嗣治らと仲良さげに写真に写っているにも関わらず図録もないとはこれ如何に……
この画家は本当によく色々な集合写真にひょっこり写っているんですが、作品画像が少ないんです。作品よりもあの特徴的な髪形のおじさんの笑顔がいつも脳裏にチラつきます。
僕は迷いましたが、偽物はないと確信して入札することにしました。あとは、この絵に興味のある人が全国にあと何人いるかが問題です。なにせ僕はフリーター。オークション界では、ほぼ最弱の存在なのですから。
2、いつも同じようなメンバーで競っている
入札するのは基本的に10分前からです。そうでないと、無用な注目を浴びてしまいかねません。そっと勝負を決するのが一番望ましいのです。アサシンかスナイパーの気持ちになってください。
しかし、すでに入札は入っていました。
僕が入れる前に札を入れた人がいるのです。この人が筋金入りの「群馬の画家コレクター」だったらおしまいです。そんな人がそう多く存在するとは思えませんが、そんな人が二人揃った時点で競りは成立してしまうのですから、世の中そううまくはいきません。
この方が入札のことを忘れてくれているか、寝ててくれることを祈りつつ入札します。
ここで一気に金額を上げて入れる人と、少しずつ入れる人と流派が分かれるとは思いますが、僕はその日の気分です。この時は本当にお金がギリギリだったので少しずつ入れたと思います。
運のいいことにすぐに最高額入札者になりました。ヤフオクのシステムは、皆様ももうご存じでしょうが改めて説明いたしますと、先に入札があった場合は伏せられたその金額を上回る額を入札しない限り、再入札を促されます。上回る入札ができた場合はこちらに落札の権利がやってきます。そしてそのまま残り時間が経過すれば無事に落札というわけです。
しかし、残り時間5分前以降に新たな入札があった場合は時間が自動で5分延長されます。これは何回でも延長されますので、競る時は時間が30分、1時間伸びることがざらにあります。しかもそうやって入札件数がどんどん上がっていくと注目商品としてサイトのトップの方に表示されてしまいますので、今まで気づいていなかったライバルたちがさらに入札に参加してくる可能性が高まります。なので、やはり短期決戦が望ましいです。
そんなことも知らず、初めての入札に勝手が掴めない僕はじっと画面を見つめます。相手があることですので待つしかないのですが、待つというのはこれはこれでなかなか辛いものです。
そうこうしているうちに残り5分。しかし、ここであっさりと金額を塗り替えられてしまいました。しかも新しい3人目の入札者です。
やばい。僕はそう思いつつも、ここはすかさず入札してもう一度最高入札額にします。
これが何度か繰り返され、時間がどんどん長くなっていきます。
僕はもう半ば観念したつもりで最後の入札をしました。それが送料を含め、僕が出せるギリギリの額です。
それを入札したならば、あとはもう寝るだけなのですが、寝れるはずもなく僕は画面を見つめて祈っていました。この時の1分、1秒は本当に長く感じます。
すると、なんと奇跡的にそのまま終了したのです。
僕は本当か?と思い、何度かリロードしましたがすぐに落札のメールが届き、本当だと知りました。
この時は本当にうれしかったことを覚えています。今にして思うと、それが妥当な相場だったのでお相手も諦めたのだと思います。
これ以来、ネットオークションの沼にハマってしまい、今では完全に沼の住人になってしまったのですが、ひとつ気が付いたことがあります。それは、僕と競っている人はだいたいいつも同じメンバーだということです。しかも中には、いのは画廊のお客さんや、知り合いの画廊主、オークション出品者などもいて、今では伏せられているアカウント名を見るだけで「あ、これあの人だ」とわかるようになりました。本当に世間は狭いです。
3、無事に受け取り
初めてネットオークションなるもので絵を買った僕は、無事に届くかどうかすら心配していましたが、届いてみると梱包もしっかりされていて状態も問題ありませんでした。
基本的に皆さん梱包はしっかりしてくださいます。ダメな梱包で作品が傷ついてしまったことは、長い取引歴の中で一件しかありません。その方との取引はそれ以来一度もしていませんが、そういった出品者はあまりいない印象です。
作品の状態については画像だけではわからないこともあります。そんな時は質問してもよいと思います。また、絵画は実物を見たときの印象が画像で見たときとは異なるものです。過度な期待はせず、その画家の画風を理解した上で入札したいものです。
早速、届いた絵を壁に飾って見てみます。
偽物ではなさそうですし、画像の印象よりも良い感じです。
はじめて猪羽さんや画廊を通さずに絵を買えたことに嬉しいというより、どこかホッとして僕は椅子に座りました。
その後帰宅した妻に、ネットで絵を買ったことを説明するのにかなり骨が折れましたが、絵が良かったので事なきを得、またホッと一息。
先輩コレクターでも奥さんにばれたくないからと、絵を買ったら必ず午前指定か配達所引き取りにしているという話を本当によく聞きます。
皆さん、苦労してるんだな……と普段は陽気なおじいちゃんたちの哀愁漂う顔を思い浮かべながら、今日も僕はネットの海を漂うのでした。
ではでは、また~。