おすすめ図録②『特別展 大正・昭和の水彩画 蒼原会の画家を中心に』

こんにちは!

本日もよろしくお願いします。

1、日本人と水彩画

本日おすすめする図録はこちらです。

『特別展 大正・昭和の水彩画 蒼原会の画家を中心に』(渋谷区立松濤美術館 1995)

『特別展 大正・昭和の水彩画 蒼原会の画家を中心に』(渋谷区立松濤美術館 1995)

こちらも比較的手に入りやすいため選ばせていただきました。内容も水彩画を探す上で重要な画家が少しずつですがきちんと網羅されているので良いと思います。

日本に水彩画をもたらしたのは幕末期に来日したイギリス人画家チャールズ・ワーグマン(1832-1891)と言われています。当時、彼のもとで五姓田義松、高橋由一らが指導を受けています。次いで前回も登場したアントニオ・フォンタネージが工部美術学校において浅井忠、小山正太郎らにカリキュラムの一環として水彩画を指導しました。

明治20年代になると、イギリスからアルフレッド・イースト、ジョン・バーレイ、アルフレッド・パーソンズといった水彩画家が相次いで来日し、展覧会を開催したことによってイギリス流の水彩画に魅了された画学生が多く現れました。その中の一人に三宅克己がいます。

明治の洋画会では水彩画が大ブームとなりました。明治美術会の後進である「太平洋画会」の第一回展では出品作のほぼ半数が水彩画になるほどです。明治時代後期に活躍した水彩画家としては三宅克己、丸山晩霞、大下藤次郎の三人をはじめ、中川八郎、吉田博、石川欽一郎、河合新蔵らがいます。

しかし、こういった水彩画ブームに対し、画家の鹿子木孟郎はいわゆる「水彩画論争」なるものを三宅に挑みました。それは水彩画は西洋画の一技法に過ぎず、それが独立して成り立つのはお可しいという論調でしたが、この油彩画家たちが「油彩画を第一として、水彩画をその一段下に置く」という見方は多かれ少なかれ、この後もずっと続いていくことになります。

大下藤次郎は三宅と共に原田直次郎にも指導を受けた画家です。また、明治34年に水彩画の手引書である『水彩画之栞』(大下藤次郎 新声社 1901)を出版、これが大ベストセラーになります。(この本は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができます。ありがたや~)三宅の『水彩画手引』(東京日本葉書会 1905)と共に一般への水彩画普及の火付け役となりました。曽宮一念も子供の頃に三宅の『水彩画手引』を買い与えられたことで画家を志したといいます。

大下は明治38年、水彩画の研究団体「春鳥会」を組織し、その機関誌として『みずゑ』を刊行します。その後、明治39年には「水彩画講習所」を神田に、明治40年には名を「日本水彩画会研究所」と改め、小石川にも施設を作りました。しかし、大下は明治44年に急死。41歳の若さでした。

大下の死後、大下の活動を受け継ごうと仲間たちが新しく「日本水彩画会」を結成。会員には石井柏亭、石川欽一郎、磯部忠一、戸張孤雁、大橋正堯、河合新蔵、丸山晩霞、真野紀太郎、白瀧幾之助、赤城泰舒、水野以文、相田直彦、小山周次、後藤工志、望月省三、小島烏水らがいました。

2、蒼原会

その後、『みずゑ』は水彩画だけでなく美術全般を扱う総合雑誌として大下の遺族が発行を引き継ぐことに。また、日本水彩画会研究所については日本水彩画会が受け継ぎ、事務を小山周次が担当、講師を石井柏亭、白瀧幾之助らが請け負うことになりました。

しかし、資金難で日本水彩画研究所はやがて閉鎖に追い込まれます。仮りの事務所として寺田季一の自宅を使っていましたが大正9年に寺田が結核で死去、同居していた小山がそのまま仮研究所を引き継ぎます。

大正10年、この仮研究所に小山良修が入会してきます。小山良修は東京帝国大学医学部の学生でした。その後、美大受験を目指す中西利雄が入会、さらに翌年銀行に勤める富田通雄が入ってきました。

この小山良修、中西利雄、富田通雄はすぐに意気投合、この三人を中心に小山周次へ相談、また大下の遺族、大下正男の協力を経て「蒼原会」は出来ていくことになります。

その後のことは図録に詳しいので、気になる方は是非読んでみてください。

3、みな水彩画を描いていた

この画集には浅井忠、三宅克己、大下藤次郎などはもちろん、萬鉄五郎、古賀春江、坂本繁二郎らの水彩画も載っています。これらの画家も水彩画を好んで描いていました。この中でも古賀春江の水彩は稀に市場にも出てくることがありますので要チェックです。

水彩画の資料は油彩などと比べてまだまだ少ないと感じています。(この図録にも出品目録を付けて欲しかった……)しかし、水彩画には油彩とは別な魅力が溢れています。これからもコツコツと資料を集めつつ、作品を探し続けたいと思います。

皆様もぜひこちらの図録を読んで、水彩画探求の海(沼?)においでください。お待ちしております。

ではでは、また~。

参考文献:『特別展 大正・昭和の水彩画 蒼原会の画家を中心に』「蒼原会:忘れられた水彩画普及運動ーみずゑにかけた画家たち」福井泰民(渋谷区立松濤美術館 1995)

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